突然ですが、「これからWeb編集者として戦っていくために必要な能力は?」という問いに、なんて答えますか?
Web編集者として活躍するには、どんなスキルが必要なのか。
朝日新聞での記者経験を経て、月間2,000万UUを超えるハフポストの編集長をしている竹下隆一郎氏に、どんなスキルをもった人材と一緒に働いてみたいのか伺いました。
知って意識を変えるだけで、ユーザーの心をしっかりと掴めるWeb編集者の道が開けるかも知れません。
ハフポスト日本版 編集長 竹下隆一郎
ハフポスト日本版編集長。慶應義塾大学法学部卒。2002年朝日新聞社入社。経済部記者や新規事業開発を担う「メディアラボ」を経て、2014〜2015年スタンフォード大学客員研究員。2016年5月から現職。「会話が生まれる」メディアをめざす。ハフポストでは、日々の時間の過ごし方を読者と一緒に変えていく「アタラシイ時間」、女性のカラダのことを語り合う「Ladies Be Open」、つながり過多の時代に自立して生きることの価値を再考する「だからひとりが好き」などの企画が評判を呼んでいる。
一緒に働きたいWeb編集者①:気が散っている人
ーー 早速ですが、竹下さんの思う「一緒に働きたいWeb編集者」には、どんなスキルが必要だと思いますか
今回は3つのスキルについてお話しようと思っていて、まず最初に挙げるなら「気が散っている人」ですね。
既存の仕事とか、枠組みばかりに集中せず、あちこち見回して、身の回りの変化をキャッチできる人に働いてもらいたいなと思います。
ーー 気が散っている人!? 竹下さんご自身は、いかがですか
僕自身、気が散っている方だなと思いますね。
例えば、ニューヨークへ出張で行ったとき。普通なら、ニューヨークにいる友人や同僚たちと会ったり、他のメディアを視察したりするのがパターンですよね。
僕はそれが嫌だったから、ふらっとニューヨークの近代美術館に行きました。
(画像はイメージです)
その日は金曜日だったのですが、なぜかチケット料を取られずに入館できました。ラッキーですよね。後からわかったのですが、その日は「ユニクロ・フリー・フライデー・ナイト」という入館料を無料にするプログラムの日だったんです。
「ユニクロ」が「アートを支援しています」と発信することで、ニューヨークの人たちの心を掴んでいるのがよく分かりました。
アートを見て歩くと、仕事帰りと思われる人たちがたくさんいて、新しい時間の過ごし方をしているなと思ったんですよね。その光景がとても素敵でした。
ーー その体験はどんな形で活かされたんですか?
このイベントをヒントに、ブルーボトルコーヒーと一緒に、ハフポストの読者にコーヒーをごちそうして一緒に時間について考える会を開きました。お店の方に「アタラシイ時間で来ました」と一言いうだけで、コーヒーやジュースが無料で飲める催しです。
このイベントは5日間開催していたのですが、初日から3日目までは、1日30人前後が来店。4日目は80人を超え、最終日の5日目は約200人が集まりました。
僕は、ずっとニュースを伝える側のキャリアを歩んできましたが、そればかりに関心を寄せていたら、今回のようにヒントは得られず、イベントを成功させることはできなかったでしょう。
・気が散っている人になろう。周りの変化に敏感であるべし
一緒に働きたいWeb編集者②:巻き込む力がある人
ーー 「気が散っている人」のほかに、編集者に必要なスキルはなんだと思いますか
次に挙げるのは、「巻き込み力」です。周りをみんな巻き込んで、チームでより良いものを作り上げていくいく力が重要です。
ブルーボトルコーヒーのイベントも、当初はもっと違う企画だったんですが、一緒にイベントを作り上げていく上で内容が変わっていきました。
周りを巻き込んで、多くの人に自分ゴトとして参加してもらうためのやり方の1つとしておすすめなのは、企画書を完ぺきにせず、わざと精度をあらめにして提案することです。企画にわざと突っ込みたくなるポイントを用意することで、相手に”一緒に考えてもらう”んです。
そうすることで、関係者から、当事者になってもらうことができます。
ーー どんな風に変化したのですか?
このイベントでは実際に、ブルーボトルコーヒーのスタッフの皆様が、ご自身の友達や知り合いに「来て!」と呼びかけてくれるイベントになりました。
「働き方改革をかんがえる」という、いかにもメディアっぽい「それらしい」メッセージにしないで良かったと思います。ブルーボトルコーヒーの担当者も、日々様々な消費者と接しているからこそわかる「世間の風」がみえていたのだと思いました。
ーー 面白いですね! みんなが、いつしか主催側に回っていた、ということですね
ハフポストだけで発信していたら、あんなに参加者が来なかったんじゃないかなと思います。「巻き込み力」が発揮されず、今回のように成功はしなかったかもしれない。
参加者自身がイベントのPR大使みたいになり、「Instagram」では「アタラシイ時間」というハッシュタグで、120以上の写真がアップされています。
わざと企画にツッコミどころをつくることで、周りをみんな巻き込んで、チームで作り上げていくーーそんな能力も必要だなと再認識しました。
・巻き込む力がある人になろう。周りの人に当事者意識を持ってもらうべし
一緒に働きたいWeb編集者③:発信力のある人
―― これまで、「気が散っている人」と「巻き込む力がある人」という2つの要素を伺ってきました。そのほかに、竹下さんがWeb編集者に必要だと思うスキルはありますか
編集者だからこそ、持っていてほしいのは、「発信力」でしょうか。
ーー 発信力がある人。それは、届けたいメッセージを相手に届ける能力、ということでしょうか
そうですね。言葉だったり、音声だったり、今回のように取材を受けるのも発信のひとつ。ブルーボトルコーヒーさんと、イベントをしたことも発信ですね。
先日、あるメディアのパーティーに呼ばれたとき、会場にいらしていた方から「あっ、コーヒーの人ですね!」と声をかけられました。
ーー コーヒーの人!
あとは、スマートスピーカーは面白いですね。声だけのコミュニケーションも重要になってくるんだなと感じます。
(画像はイメージです)
「今日のニュースは?」と呼びかけたら、今後は記者が話したり、サムライトの人の声が出てきたりする未来がくるかもしれません。あるいは、企業経営者の言葉をピックアップして流してくれるようにもなるかも。
こんな風に、文字にこだわらず、発信することに興味がある人と一緒に仕事がしたいですね。
ちなみに、今、アメリカのメディアの人と話すと、テキストになっていない情報であふれているという経験をすることがあります。
例えば、昨日の朝も、ニューヨークの動画チームの人たちとミーティングがありましたが、全く資料は用意されていなかった。テレビ電話ツールで、やりとりをして終わりなんです。
資料化する時間も惜しい。そんなときに得られる情報が、最先端の情報。
もし、パワーポイントに資料化するのを待っていたら、1週間かかることでしょう。
その情報がレポートになるのを待っていたら、さらに1週間。本になるのは、半年かかります。さらに、日本語に訳されて国内で販売されるまでに半年。そこで、誰かがFacebookなどで紹介して、自分がその情報に気づくまでに、また半年……。
あっという間に1年半ものタイムギャップが生まれる。発信力は、自分のビジネスサークルのなかでも必要になるスキルですね。
(画像はイメージです)
ーー 発信について、最近気になっている世の中の流れはありますか
NewsPicks Bookの、『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』 (著者:佐藤航陽)をご存知でしょうか。いままで、“ネット的な人たち”と言われてきて、紙を否定していた人たちが、また本に戻ってきています。
彼らは、何故本を作るのか。それは、ストーリーを語ることで、得られるメリットをたくさん知ったからです。ビジネスパートナーを得られたり、人材採用につながったりすることに、直感的に気づいたのでしょう。
その他にも、SHOWROOMの前田裕二さんのように、メディアに露出して自分の人生を語る人も増えてきました。
ストーリーを考えて、発信する。この能力は、「ストーリーテリング」と呼ばれています。
(画像はイメージです)
今までは、メディアの記者に必要とされてきたスキルでしたが、今後は出資してもらったり、なにかを伝えたりしようとするときなど、ストーリーを発信する力はますます重要になっていきます。
今はまだ、そういった職業には名前はありませんが、新しく、ストーリーテリングオフィサーのような役職も生まれるのではないかと睨んでいます。
そのときのために、サムライトやハフポストで修行を積み、まったく違う会社に行くことは、“結構アリ“じゃないでしょうか。3つぐらいの発信手段を持っていると、食いっぱぐれないのでは、と思います。
ハフポスト編集長・竹下さんより、サムライト代表・池戸への3つの質問
今回の記事では、ハフポスト編集長・竹下さんより、サムライト代表に「これからのWeb業界における3つの質問」を考えていただきました。その回答の様子をお届けします。
【Q1】企業は、ストーリーテリングをどこまで重視していると思いますか。
【Q2】日本語のみの発信だと、日本語が読める人にしかコンテンツは届かない。それでは、ビジネスが拡大しないのでは、と思いますが、それはどうお考えですか。
我々が運用しているメディアでは、非言語対応サイトでも海外からの流入が5%程度を占めています。翻訳サービスの精度向上に伴い、言語の壁もなくなりつつあるのではないでしょうか。あるInstagramアカウントにおいては、大半のフォロワーが海外の人なんていう話も珍しくありません。
そういう意味では、グローバル企業やデジタル上でビジネスを展開している企業は、多言語対応は必須と言えるかもしれません。国内1.2億人に発信するより、世界70億の人に発信する方がビジネスチャンスはありますもんね。
【Q3】動画、音声など、非言語の発信についてどう思っていますか。
特に、動画については、コミュニケーションスピードも早く、国境や言語の壁を瞬時に超えていきます。ソーシャルメディアを利用している中で、海外発の動画コンテンツを「いつの間にか」閲覧している……なんてことは、誰しも経験あるのではないでしょうか。
言語や文化、習慣が違えど、”意外性”、”共感”、”普遍性”、”シンプル”といった必要な要素を押さえることで、一気に70億人に消費されるコンテンツになり得るというのは、制作者にとってエキサイティングな世界です。
また、キャリアの面で考えると、新聞社では活字、テレビ局では映像と、メディアごとに最適化されたコンテンツフォーマットがあり、それに紐づくキャリアが存在していました。しかし、デジタル時代においては、1つのメディアの中で活字、動画、音声が使い分けられることになると思っています。結果、メディアとコンテンツフォーマットの垣根が溶け、同時にキャリアも多様化していくのも大きな流れと言えます。
日々進化するテクノロジー、新しいデバイスの普及、それと共に生まれる新しいメディアやコンテンツのカタチーー。これからの時代を生き抜くweb編集者として、時代の変化にどう対応していくのか、どんな編集者になるのか。自身のキャリアを考えていくことがより大切になっていくのではないでしょうか。
参考:“気が散っている人”になろう。ネット業界の荒波を5年間生き残ったからこそ思う
それに伴い、企業のマーケティング手法も大きく変化。自社のストーリーを届け、消費者の心を惹きつけるコミュニケーション、”ストーリーテリング”を重要だと認識しているでしょう。しかし、活用できている企業は、多くないように思います。
何故かというと、自社の資産やストーリーの棚卸しがうまくできていなかったり、社会や生活者の文脈(コンテキスト)に寄り添えていなかったりするから。1人よがりの「ストーリーテリング」になっているケースも見受けられます。
そんな中、消費者の目線に立ちながら、企業のストーリーを紐解き、デジタル上のコンテンツとして昇華し届ける「ストーリーテラー」=「web編集者」は、貴重な存在と言えるでしょう。